症例15 70台女性 胆管癌の最後の日々
松さんは70台女性。
胆管癌があり、闘病してきた。
始めは黄疸で見つかった。
働き者の奥さんで旦那さんの方が少しヨボヨボしていた。
1年程前に内視鏡で胆嚢摘出術と胆汁が流れるようにステントを入れた。
それからは食欲も戻り、定期的に通院して、自宅で過ごしていた。
今回も胆汁の流れが悪くなり、肝機能障害もでて、食事もあまり食べられ無くなり入院してきた。
抗生剤と点滴で経過を見ていたが、あまり改善してこない。
もう一度内視鏡でステント交換をすることになった。
もう何回目だろうか・・・
しかし結局癒着が強くてうまく交換することが出来なかった。
次の日経皮的に総胆管を穿刺してチューブを挿入し、体の外に出して胆汁を流すようにドレナージをした。
赤褐色の胆汁が流れ出て袋にたまった。
これで少しは改善するかと思われたが、数日でチューブも詰まってしまい、ドレナージが効かなくなった。
体も弱ってきて、トイレに行くのにもふらついて転ぶ事もあった。
旦那さんに「いよいよ最期の時が来た」
と、看取りのICがいった。
おりしも、新型コロナウイルス感染流行のため、緊急事態宣言が出ている。
当院も全面面会禁止だが、看取りの方は例外で、個室の場合、2人までは面会が認められている。
しかし非常事態宣言が出されている地区からの面会者は別である。
帰省してから2週間は自宅待機してもらい、その後は面会可能となる。
旦那さんは毎日面会に通ってきた。
息子さんは県外在住であり、スマホでテレビ電話にし、面会をしたりした。
最期と言われているのに面会もできないのはなんとも言えないが、例外を作るわけにはいかない。
現在当地区での感染者はみな、緊急事態宣言の出ている地区から帰省した人から感染している事がわかっている。
また発症前から感染力がある事もわかっている。
本当に運が悪いと諦めてもらうしかないのだ。
スタッフも辛い気持ちを持ちながらも、なんとか院内感染が起こらないように、また自分たちも体調を崩さないように、毎日気を張り詰めているのだ。
そんなある日、松さんの息子さんが急遽
「帰省するので母を退院させて家で看取りたい」と決めてきた。
訪問看護と往診ができる開業医の先生に相談し急いで準備し、希望に添えることになった。
家で最期を家族とゆっくり過ごせることができるならそれが一番である。
最近は
「家では介護できないから最後は病院で」といっている方が多くて退院支援も難しかったが、今回の新型コロナウイルスの流行で生活様式や価値観も変わりつつある。
最期の看取りの場にも影響が出ている事と、もっと患者さんの身になって在宅での看取りをこちらから提案して差し上げるべきだったなぁととても反省した。
もっと患者さんの事を考えて看護しないと、、
新型コロナウイルスにばかり気を取られていてはいけないなぁと思った。
松さん 1日でも永くお家で過ごせると良いなぁ。
そしてご家族もご本人も苦しまないように過ごせることを祈っています。