症例 8 83歳 男性 肺癌で呼吸苦有りの認知症患者
舟さんは肺癌末期の患者さん。
呼吸が苦しく、食事も食べられずに入院してきた。
もともとちょっとわがまま頑固な人で奥さんもだいぶ手を焼いたようだ。
認知症も徐々にすすみ、いろいろ我慢ができなくなってきた。
点滴で補液し、リハビリも実施し、だいぶ入院前のADLに戻りつつあった。
酸素吸入も1L鼻カテーテルで始めた。
病状も安定してきたはずなのに、しょっちゅう「苦しい。」「お腹痛い。」などといろいろ訴えがあった。
その度に検査したり頓服を飲ませたりしたが、病状よりも心情的な訴えであり、ナースステーションなどでナースの隣にいると落ち着くという状態だった。
またセクハラ?看護師の腕や胸を触ろうとする、寂しがりやでもあった。
そのことも踏まえ、介護の指導もし、訪問看護を導入して、
" まだ寿命はある" と言う判断で自宅退院していった。
ところがその日の夜にもう「苦しい、苦しい」
と訪問看護に電話がきたそうだ。
訪問して観察してもそれほどの変わりはない。
でも安心せずに病院へ🏥
そして帰宅する。
毎日3回ほど繰り返し、奥さんの不安も強く、再入院してきた。
急性期病棟で治療をし、また地域包括ケア病棟に転棟してきた。
相変わらず
「苦しい、苦しい」
と口癖のように言っていた。
ほとんど眠れていない状態であった。
前回と顔つきが違う。
とても険しい顔をしていた。
あまりに訴えが強く、ドクターの診断では
「まだ早い」
という段階であったがカンファレンスの末、麻薬を使うことになった。
そしてぐっすり眠った。
次の日は穏やかな前回の入院時のような表情になった。
その日から麻薬による疼痛コントロールが始まった。
麻薬というと何か怖い気がするが、使用方法は
だいぶ確立しており、癌末期の患者さんは使った方が穏やかに過ごせたりする。
でもやはり認知症のある患者さんの場合は難しい。
言葉とバイタル、そしてよく観察してアセスメントしていく。
毎日うまくいくわけではなく、昼間は穏やかなのに夜騒いだり、なかなかうまくいかない。
夜勤のスタッフは多分
「今夜は静かに寝てくれると良いなぁ」
と思って仕事に出てくるだろう。
私もスタッフの頃はそうだったから…
1晩でも2晩でもゆっくり眠ってほしい。
舟さんはもう多分家には帰れないだろう。
奥さんも毎日面会に来てはくれるが家に連れて帰るのは難しいだろう。
少しでも落ち着いたら、息子さんたちが仕事を休んで一緒に居られる時があったら外出でもできれば良いなぁと思う。
最後の年越しになるだろうから…
でもドラマのようにはうまくいかないのが現実である。