症例11 67歳 男性 脳梗塞後遺症 寝たきり
Mさんはとても大柄な体重も60キロ以上あるような男性。
農家をしていただけあって身体もガッチリしている。
1年程前に脳梗塞を発症し、後遺症で寝たきりになって、発語も無く、こちらの言葉も理解できているのか不明である。
今回は施設から誤嚥性肺炎で入院してきた。
急性期病棟で治療をして軽快し、退院支援のため地域包括病棟へ転棟してきた。
小柄な奥さんが毎日のように面会に来ている。
退院に向けて調整を始め、奥さんに希望を聞くと
「もう施設には戻りたくありません。
自宅で私が面倒見たいと思います。」
とはっきり意思表示された。
とても大きな方の介護はするのは大変でおむつを替えることも1人では難しい。
本当に大丈夫だろうか?
それでも" 家族の希望に沿って退院できるように支援する事がうちの病棟の仕事である" という思いのもとチームで退院指導をする事になった。
おむつ交換・胃瘻からの経管栄養の練習。
1つ1つ覚えていってもらった。
ちょっとおっちょこちょいで明るい奥さんはわからないことなどスタッフに何でも聞いてそれほど負担に思っていないようだった。
そんな中、Mさんの家の愛犬が亡くなった。
奥さんはしばらく元気がでず、4・5日寝込んだ。
そしてまた退院指導を再開した。
そのあとは外泊も経験して無事自宅へ退院された。
1年前寝たきりになってしまった時は他の病院だったが、自宅介護の事とか施設のことなどあまり知らずにすすめられるまま、施設を探し退院されたのだろう。
誤嚥性肺炎での入院を機会に" 今度は自宅へ退院させたい" と思い実現させたのだ。
スタッフもほんとに大丈夫かなぁと思っていたが奥さんの思いは変わらず、気持ちもぶれなかった。すごいなぁと思う。
退院後3ヶ月程して奥さんに私用があり3泊4日レスパイト入院をしてきた。
Mさんは特に褥瘡などのトラブルもなく、安定していた。
その時パートできていたナースがMさんの元気な時のことをよく知っていた。
農家仲間で働き者で犬をとても可愛がっていた。毎日散歩をしていて、そのナースも犬を田んぼに連れて行って仕事をしていると
「その間うちで預かるよ」とMさんの自宅へ連れていって一緒に面倒見たりしてくれていた、と。
Mさんの人柄が知れて、奥さんが愛犬の死で落ち込んでしまった事、また一旦は施設に入れたがやっぱり自宅で介護したいと思った事などが、とても心に落ち、納得したのだ。
とってもほのぼのとした気持ちになり、良い退院支援ができたなぁと思えた。
奥さんも愛犬の死を乗り越え、今はMさんの介護に力を注いでいるのだろう。
その姿が目に浮かぶようだ。
一緒の時間が少しでも長く続くと良いなぁと思う。