症例 14 70代男性 繰り返す誤嚥性肺炎
八さんは70代だが脳梗塞の後遺症で嚥下機能低下と失語症があり理解はできるが、発語がほとんど無かった。
食べる時も何度も何度も咀嚼し、唾液をダラダラ流しながら、それでも自力でゆ〜っくり2時間くらいかけて食べていた。
何回も誤嚥性肺炎を繰り返して入院する常連さんだった。
また奥さんも" 少しでも食べて欲しい" と毎日食事介助に来ていてスタッフとも顔見知りになっていた。
八さんは入院するたびに嚥下する力も弱くなり、食べられる量も減ってきたが、食べたいという気持ちはとても強かった。
3月私がまだ地域包括ケア病棟に勤務していたときも入院していたが、60日間という期限もあり、退院先を決める事となった。
吸引も必要ということで施設は難しく、療養型の病院を探した。
奥さんが療養型病院の面談に行ったとき、そちらの病院で
「胃瘻を作ってきて欲しい」と言われたそうで、奥さんも迷い始めてしまった。
そんな折、新型コロナウイルスの流行が始まり、感染防止のため全面面会禁止になった。
「少し前に食べられなくなっても、胃瘻は作らないって言っていたから、もう一度確認したいので面会させてください」と奥さんから申し出があった。
奥さんの体調も確認して、短時間で面会してもらった。
はい、いいえ、と書いた紙を持ってきて、胃瘻について、延命について、聞いていた。
結局
食べられるだけ食べたい、
胃瘻は作らない、と決まった。
そして空床がでて「こっちの病院が良いんだけど…」と言いながら療養型の病院へ転院して行った。
そして、私が急性期病棟に異動して1週間。
またまた入院してきた。
今度はレベル低下・低血糖" 25" だった。
もう経口では難しく、また点滴しても体の代謝異常もあり、吸収されないようだ。ブドウ糖を静注しても数時間でまた低血糖になってしまう。
高齢者は気付かないうちに低血糖になり、呼吸状態が悪くなり、亡くなる場合もある。
奥さんもいよいよ覚悟した様子。
個室を希望してもらい、面会禁止中ではあるが、付き添いもできるようにした。
次の日には反応も悪くなり、ますます呼吸状態も悪化した。
昼過ぎに奥さんに連絡して来院をすすめた。そのまま一晩付き添われ、次の日の朝に亡くなった。
朝病棟に行くとまだ病室にいらっしゃって最後にお話しできた。
八さんはとても穏やかなお顔をしていた。
元気な時の面影もあった。
奥さんから
「何年ぶりかで一晩一緒に過ごせました。息子も昨夜会いに来れました。お世話になりました。」と感謝の言葉をいただいた。
長い間の介護、お疲れ様でした。
最期は急でしたがおだやかな看取りで良かったと思います。
奥さんもお体お大事に!